EMG総合法律事務所: マンション管理Q&A

滞納管理費等の請求


29 不動産強制競売申立事件の予納金について


  私たちの管理組合は、管理費滞納者に対して訴訟を提起し、判決を得ました。そこで、不動産強制競売を申し立てたいのですが、強制競売申立事件の予納金は全額戻ってきますか?


  「予納金は全額戻ってきますか?」というご質問は非常に多いのですが、もし「予納金は全額戻ってくる」とお考えでしたら不正確です。
 そもそも「予納金は戻るのか」というご質問は、「予納金残金」の話と「手続費用」の話とが混乱している可能性があります。
 とりあえず、ここでは次のような前提、すなわち、@債務名義(判決等)に基づき強制競売を申し立てる場合で、A優先債権(抵当権や租税債権)が存在しており、B先行事件(先行する不動産競売開始決定)は存在していない、という3つの前提条件のもとに説明していきましょう。
 結論を先に述べると、上記3つの前提条件のもとでは、予納金相当額が戻ってこないことがあり得ます。例えば、@強制競売手続が、途中で無剰余を理由に取り消されてしまうと予納金残金しか戻ってこないし、A買受可能価額が手続費用の見込額を超えないような場合には手続費用を放棄することもあり得ますが、そのような場合には予納金残金しか戻ってきません(※1)。

(※1)ちなみに、@区分所有法59条に基づく競売申立(形式競売)の場合は話の内容がガラリと変わってきますし、強制執行申立の場合においてもA優先債権(抵当権や租税債権)が存在しない場合又はB先行事件が存在している場合には話の内容が変わってきます。

 まず、予納金とは、簡単に言えば、不動産競売手続の各種費用に充てるため予め申立人が裁判所に納付する金銭のことです。つまり、予納金は裁判所が保管し、裁判所は不動産競売手続にかかる各種費用をその予納金(保管金)から支払っていきます。 予納金(保管金)から各種費用が支出され、最終的に残ったもの(予納金残金)は予納者に返金されます。不動産競売手続においては、不動産評価費用や現況調査費用等、諸々の費用が発生していきますが、その費用は予納金(保管金)から支出されていくのです。
 ちなみに、不動産評価費用や現況調査費用等は「手続費用」ということになります(資料@参照)。
 資料@に掲げられているような手続費用は、原則として、売却代金の中から最優先で償還されるのです(資料A参照)。

 ところで、不動産の「買受可能価額」は、現況調査や不動産評価の結果を踏まえて決まります。
 買受可能価額が決まるときには現況調査費用や不動産評価費用が発生しているということになるのです。

 厄介なのは、買受可能価額が、手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権(以下「優先債権」といいます。)の合計額に満たない場合です。この場合には、原則として無剰余取消しとなります(資料B参照)。皆さんよくご存知の無剰余取消しの話です。
 但し、その場合でも、例外要件が充たされれば「この限りではありません」(資料B参照)。

 例外要件が充たされず、無剰余取消しになってしまえば、それまでに予納金(保管金)から支出された費用は戻ってきません。つまり、予納金(保管金)の残金は戻ってくるのですが、手続費用の償還には至らないのです。
 例えば60万円の予納金(保管金)のうち、各種費用合計35万円が使われたとすれば、残りの25万円しか戻ってきません。
 ちなみに、無剰余取消しの例外要件の「優先債権者の同意」に関して言えば、「不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において」という条件が付いています(資料B参照、資料C参照)。つまり、不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超えない場合にはさらに厄介なのです(資料C参照)。
 そのような場合(不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超えない場合)には、(優先債権者全員の同意を得るほか)手続費用を放棄したりします(※2)。

(※2)そもそも、なぜ、管理組合は手続費用を放棄してまで無剰余取消しを回避したいのでしょうか?説明するまでもないでしょうが、それは新しい所有者(特定承継人)を出現させたいからなのです(区分所有法8条参照)。

 仮に手続費用を放棄した場合、売却代金(配当原資)がどのように配当されるかについては、資料Dをご参照ください。

 さいごに付言すると、上記で説明した無剰余取消しの問題と無縁の事案の場合、予納金残金額と手続費用額の合算額は予納金額を超えることになるでしょう(※3)。

(※3)具体的に言えば、予納金を納付する前に申立人側で負担している費用(例えば、競売申立手数料(収入印紙代)等)は、予納金(裁判所保管金)から支出されるものではありません。しかし、このような費用(総債権者の共通の利益のために支出されたと認められるような費用)は手続費用として計上され、最終的に売却代金の中から償還を受けることができるのです。

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