EMG総合法律事務所: マンション管理Q&A

滞納管理費等の請求


9 使用料や遅延損害金も承継(区分所有法8条参照)されるか


  前区分所有者(Aさん)は、駐車場使用料を滞納したまま、マンション(部屋)をBさんに売却しました。管理組合としては、現区分所有者(特定承継人のBさん)に対し、前主(Aさん)が滞納した使用料やそれに対する遅延損害金を請求することができるでしょうか。また、先取特権(区分所有法7条)を実行することができるでしょうか。


  東京地方裁判所平成20年11月27日判決(平成20年(ワ)第9871号事件)の内容(「当裁判所の判断」)について紹介します。ただし名称等は伏せてあります。

【事案の概要】
 マンションの管理組合である原告が、マンションの区分所有者が管理費、修繕積立金、駐車場賃料及び駐輪場賃料を滞納した後に同区分所有者から区分所有権を不動産競売により取得した被告及び本件訴訟係属中に被告からこれを買い受けた引受承継人の両名に対し、管理費及び修繕積立金の遅延損害金並びに駐車場及び駐輪場の各賃料とその遅延損害金の各支払を求めた事案

「当裁判所の判断

1 争点(1)(本件滞納賃料は区分所有法8条所定の「債権」に当たるか)について

  (1)  原告は、本件マンションの区分所有者全員で構成される管理組合であって、法人格は取得していないものの、各区分所有者が議決権を有する総会が定期的に開催されるとともに、理事長、副理事長、理事及び監事等の役員が総会で選任されて管理組合の業務を遂行することになっており、社団としての実質を備えていることからすると、原告は権利能力なき社団とみることができ、原告が有する債権は原告の構成員である区分所有者全員が総有しているものと解される。

  (2)  また、本件規約には、本件マンションの共用部分より発生する使用料は管理組合に帰属し、その使用料は管理に要する費用に充当されること(本件規約30条)、本件駐車場及び本件駐輪場がいずれも本件マンションの共用部分に含まれ、原告が区分所有者に対し、本件駐車場については別途契約により、本件駐輪場については区分所有権存続中もしくは別途契約により、それぞれ専用使用権を設定できること(本件規約8条、14条1項、別表第2、第4)、本件駐車場の賃料額が1台に付き月額2万円であること(別表第4)、本件駐輪場の賃料額が1台に付き月額100円であること(同)、本件駐車場及び本件駐輪場の賃料支払方法は毎月末日に翌月分を一括払であって、同期限を過ぎるとその翌日から支払済みまで年18%の遅延損害金が加算されること(本件規約59条1、2項)がそれぞれ定められているところ、これらはいずれも「共用部分の管理に関する事項」(区分所有法18条1項)に当たり、規約で定めることができる事項であるから(同条2項)、本件規約上の上記各事項の定めは区分所有者及び特定承継人に対して効力を有することになる(同法46条1項)。

  (3)  そして、上記前提事実によれば、本件区分所有建物の所有者であったDは、原告から本件駐車場を賃料月額2万円で、本件駐輪場を賃料月額100円でそれぞれ賃借したものの、平成17年12月分から平成18年4月分までの本件駐車場の賃料合計10万円及び平成17年10月分から平成18年4月分までと同年10月分の本件駐輪場の賃料合計800円を滞納したことが認められる。

  (4)  以上によれば、原告がDに対して有する本件滞納賃料の債権は、これに対する遅延損害金も含めて、本件規約に基づき原告の構成員である区分所有者全員が総有していることになるから、区分所有法7条1項所定の区分所有者が規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権に当たるというべきであって、同法8条の「前条第1項に規定する債権」に該当すると解される。
 したがって、原告は、本件滞納賃料の債権を、その債務者たるDばかりでなく、その特定承継人に対しても行使することができる。
 
2  争点(2)(被告は、本件区分所有建物を売却した後も、区分所有法8条所定の「特定承継人」に当たるか)

  (1)  上記前提事実によれば、被告は、本件滞納管理費等と本件滞納賃料の債務者であるDから、不動産競売により本件区分所有建物の区分所有権を取得した後、引受承継人に本件区分所有建物を売却したのであるから、現在は本件区分所有建物の所有者ではない。そこで、現在の特定承継人ばかりでなく、このような中間者たる特定承継人も、区分所有法8条所定の「特定承継人」に当たるか否かについて検討する。

  (2)  区分所有法7条及び8条は、区分所有者が区分所有建物の集合体である建物の共有部分、敷地又は附属部分を共同して維持管理すべき立場にあることに鑑み、適正な管理に必要な経費等にかかる区分所有者の債務について、その履行の確保を図るため、債務者の区分所有権及び区分所有建物に備え付けた動産(以下「区分所有権等」という。)に対する先取特権を法定するとともに、債務者たる区分所有者からの特定承継人に重畳的に債務を負担させたものである。
 そして、区分所有法8条は、特定承継人に対する債権行使の手段を同法7条の区分所有権等上の先取特権の実行に限定していないから、特定承継人の区分所有権等以外の一般財産に対する同条の責任追及も可能である。
 このように8条の特定承継人の法定責任は7条の先取特権と直接リンクしたものではなく、先取特権とは別途追及することもできる責任であることからすると、8条の責任主体を区分所有建物の現所有者たる特定承継人に限定する必然性はなく、むしろ、中間者たる特定承継人についても、債務者たる区分所有者の特定承継人としてひとたび債務者と重畳的に債務負担すべき法的地位に就いた以上は区分所有権喪失後もその地位に留まらせることが、建物の適正な維持管理に必要な経費等の債務の履行確保を図ろうとした8条の趣旨に適うというべきである。

  (3)  また、実際上も、マンションの管理組合が共有部分の管理に要した費用が、8条が引用する7条1項に規定する債権の多くの部分を占めるところ、中間者たる特定承継人は、区分所有権を取得してからこれを喪失するまでの間に、前区分所有者が支払を怠った費用を他の区分所有者や管理組合が肩替わりすることによって維持管理された共有部分を使用できる利益を享受する一方で、その間8条の責任を懈怠したまま区分所有権を第三者に移転したのであるから、区分所有権を喪失した後も8条の責任を負わせることが衡平というべきである。

  (4)  さらに、8条の文理上も、債務者たる区分所有者の特定承継人について、現在の特定承継人に限定しておらず、中間者たる特定承継人を排除していない。

  (5)  以上によれば、現在の特定承継人ばかりでなく、中間者たる特定承継人も区分所有法8条所定の「特定承継人」に当たると解するのが相当である。

  (6)  そうすると、本件では、被告と引受承継人のいずれも区分所有法8条所定の「特定承継人」として、本件滞納管理費等の遅延損害金並びに本件滞納賃料及びその遅延損害金を支払う義務があるというべきである。
 なお、本件滞納管理費等及び本件滞納賃料の本来の債務者であるDと8条の特定承継人である被告及び引受承継人の債務は、相互に不真正連帯債務関係に立つものと解される。」

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