EMG総合法律事務所: マンション管理Q&A

滞納管理費等の請求


  ――専有部分の水道料金や電気料金に関する参考判例――


専有部分の水道料等について、管理組合が一括して立替払いしているケースは少なくありません。たとえば、管理組合として、マンション全体の使用量分の水道料を水道局に一括して支払い、各戸に対しては各戸の使用量相当分を請求するというケースです。

では、各戸が支払うべき水道料等が未納となったまま、その部屋が売却された場合、管理組合は、特定承継人(買主)に対して未納水道料等を請求できるのでしょうか。

このような問題を考えるとき、参考となる判例(平成20年4月16日大阪高等裁判所判決)が出ましたのでご紹介しておきましょう。この判決では、結論として、管理組合が立替えて支払った水道料や電気料について特定承継人に請求できる、とされました。

重要なのは、その結論に至る理由です(その中でも後記第1の3項部分が重要です)。以下、判決理由(ほぼ全文)をご紹介します。


平成20年4月16日大阪高等裁判所判決(管理費等請求上告事件)
理由
第1 上告人の上告理由について


  本件は、マンション管理組合である被上告人(控訴人兼被控訴人、第1審原告)が、同組合の管理に係るマンションの区分所有権等を特定承継した上告人(控訴人兼被控訴人、第1審被告)に対し、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)8条、7条1項に基づき、前区分所有者が滞納した管理費等の遅延損害金合計20万6934円、水道料金及び電気料金(以下「水道料金等」ということがある。)合計20万8347円及び上記水道料金等合計20万8347円に対する平成18年2月10日までの遅延損害金4万9347円並びに上記水道料金等合計20万8347円に対する支払期日の後である平成18年2月11日から支払済みまで規約に定められた年14%の割合による遅延損害金の支払等を求める事案である。

  原審が確定した事実関係の概要等は次のとおりである。

 (1) 被上告人は、大阪市・・・所在の区分所有建物「I」(以下「本件マンション」という。)の区分所有者全員で構成する管理組合で、法3条所定の区分所有者の団体であり、また、上告人は、平成17年6月1日、本件マンションの●●号室と敷地権(以下「本件専有部分等」という。)を競売により買い受け、以後、本件専有部分等を区分所有している者である。

 (2) 本件マンションの各専有部分は、すべてその用途が事務所又は店舗とされている。

 (3) 被上告人の管理規約(以下「本件規約」という。)には、次の趣旨の規定がある。
ア 22条1項
 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という)を負担する。
  @ 管理費
  A 積立金
イ 同条2項
 管理費及び積立金の額については、各区分所有者の共有持分に応じ、負担するものとする。
ウ 24条
 管理費は、次の各号に掲げる通常の管理に要する経費に充当する。
  @ 管理人人件費
  A 公租公課
  B 共用設備の保守維持費及び運転費
  C 備品、通信費その他の事務費
  D 共用部分等に係る損害保険料
  E 経常的な補修費
  F 清掃費、消毒費
  G 管理委託費
  H 近隣家屋に電波障害が発生した場合のテレビ共同聴視装置・付属設備の保守
    及び維持管理並びに不良故障による補修に要する費用
  I その他敷地及び共用部分等の通常の管理に要する費用
エ 25条1項
 区分所有者は、共用部分等の修繕のため、共有持分に応じて別に定める積立金を負担するものとする。
オ 62条1項
 組合員は22条1項の管理費等及び専有部分において使用した公共料金の支払に関し、支払期日までに所定の方法にて支払わなければならない。
 ただし、臨時に要する費用として特別に徴収する場合においては別に定めるところによる。
カ 同条2項
 組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合においては、その未払金額について年率14%の遅延損害金を加算して、支払わなければならない。
キ 同条3項
 組合員が、1項記載の公共料金を3か月以上支払わなかった場合には、管理者は当該電気、ガス、水道又は電気の供給を停止するものとする。

 (4) 本件専有部分等の前区分所有者であるF株式会社(以下「F」という。)は、上記管理費等の支払を滞納したが、その金額は原判決添付の別紙請求債権目録の管理費及び積立金の項の各元金欄記載のとおりであり(合計58万6800円)、これにより平成18年11月27日までに生じた遅延損害金は原判決添付の別紙遅延損害金計算表の管理費及び積立金の項の各損害金欄記載のとおりである(合計20万6934円)。
 なお、上告人は、平成18年11月27日、被上告人に対し、上記の滞納管理費等の元金全額を支払った。

 (5) 本件マンションでは、被上告人が、大阪市水道局(以下「市水道局」という。)との間で締結した一括契約により水道水の供給を受け、本件マンションの親メーターで計測された水道使用量を基に算出された全戸分の使用料金を2か月に1度、2か月分を一括して立替払した上、各専有部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基に各専有部分の毎月の使用料金を算出し、各区分所有者の被上告人に対する同使用料金の支払義務を定める本件規約62条1項に基づいてこれを各区分所有者に請求している。
 市水道局においては、水道メーターの設置基準として、専用給水装置ごとに1個設置されることとされているところ、マンション等の場合、全体の使用水量を計量する親メーターがこれに当たるものとして取り扱われ、1建物で住宅部分が14個以上の共同住宅である等の一定の基準を満たす場合には、申請により各戸計量・各戸収納制度を実施している(市水道局における上記取扱いを、以下「本件水道局取扱い」という。)。本件水道局取扱いの下では、本件マンションの各専有部分について各戸計量・各戸収納制度を実施することができない。

 (6) 本件マンションでは、被上告人が、関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)との間で締結した一括契約により電力の供給を受け、本件マンションの親メーターで計測された電気使用量を基に算出された全戸分の使用料金を毎月一括して立替払した上、各専有部分の面積及び同部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基に各専有部分の毎月の使用料金を算出し、各区分所有者の被上告人に対する同使用料金の支払義務を定める本件規約62条1項に基づいてこれを各区分所有者に請求している。
 被上告人が、平成16年7月ころ、電気工事業者を通じて関西電力に対し、本件マンションヘの電力の供給に係る上記一括契約を戸別契約に変更することの可否を照会したところ、関西電力は、戸別契約(低圧契約)への変更には、建物全体への供給電圧を低圧に変更するか、又は建物内に設置する電気室への供給方式に変更する必要があるが、本件マンションの動力の想定負荷が低圧供給の上限を超えていること、本件マンションには純住宅が2軒以上ないため、電気室供給ができないこと等を理由として、上記変更ができない旨を回答した。このために関西電力と本件マンションの各専有部分との間では、電気供給につき戸別契約(低圧契約)を締結することができない。

 (7) Fは、水道料金等の支払を滞納したが、その金額は、原判決添付の別紙請求債権目録の水道料金及び電気料金の項の各元金欄記載のとおりであり(合計20万8347円)、これにより平成18年2月10日までに生じた遅延損害金は原判決添付の別紙請求債権目録の水道料金及び電気料金の項の各損害金欄記載のとおりである(合計4万9374円)。

  法は、区分所有者、管理者又は管理組合法人は、規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨定めているが(法8条、7条1項)、ここにいう債権の範囲は、いわゆる相対的規約事項と解されるものの、法3条1項前段が「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」と定め、かつ法30条1項が「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と規律している趣旨・目的に照らすと、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、規約で定めることができるものの、それ以外の事項を規約で定めるについては団体の法理による制約を受け、どのような事項についても自由に定めることが許されるものではないと解される。そして、各専有部分の水道料金や電気料金は、専ら専有部分において消費した水道や電気の料金であり、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえない事柄であるから、特段の事情のない限り、規約で定めうる債権の範囲に含まれないと解すべきである。
  しかるところ、前記事実関係によれば、@本件マンションは、各専有部分は、すべてその用途が事務所又は店舗とされているところ、A本件マンションでは、被上告人が、市水道局から水道水を一括して供給を受け、親メーターで計測された水道使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上、各専有部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求していることとしているが、これは本件水道局取扱いの下では、本件マンションの各専有部分について各戸計量・各戸収納制度を実施することができないことに原因し、B被上告人が、関西電力から電力を一括して供給を受け、親メーターで計測された電気使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上、各専有部分の面積及び同部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求しているが、これは本件マンションの動力の想定負荷が低圧供給の上限を超えており、また、本件マンションには純住宅が2軒以上なく電気室供給もできないため、関西電力と本件マンションの各専有部分との間で、電気供給につき戸別契約(低圧契約)を締結することができないことに原因するというのであるから、本件マンションにおける水道料金等に係る立替払とそれから生じた債権の請求は、各専有部分に設置された設備を維持、使用するためのライフラインの確保のため必要不可欠の行為であり、当該措置は建物の管理又は使用に関する事項として区分所有者全体に影響を及ぼすということができる。
  そうであれば、被上告人の本件マンションの各区分所有者に対する各専有部分に係る水道料金等の支払請求権については、前記特段の事情があるというべきであって、規約事項とすることに妨げはなく、本件規約62条1項に基づく債権であると解することが相当である。
  原審の判断は、これと同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。

  なお、上告人は、憲法29条違反を主張するが、建物の区分所有等に関する法律の前記各規定が、違憲でないことは、最高裁平成12年(オ)第1965号、同年(受)第1703号同14年2月13日大法廷判決・民集56巻2号331頁に徴して明らかである。論旨は採用することができない。

第2 結論
 よって、本件上告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。


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