EMG総合法律事務所: マンション管理Q&A
総会(集会)の運営について
4 特別多数決議事項について
<特別多数決議要件について、規約で別段の定めをすることができるか?>
Q 当マンションの管理規約は非常に古いこともあって、特別決議事項の決議要件が現行区分所有法の条文と一致しておりません。たとえば、「管理規約の変更」や「共用部分の変更」に関しては「区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で決する」と規定されています。このような規定は有効なのでしょうか。
A マンション管理士やマンション管理会社担当者の方は、このような管理規約を目にすることが多いようです。
そこで、今回は、マンション管理に携わる方のために、区分所有法の特別多数決議について少し掘り下げて検討しておきましょう。
(1) 法31条の絶対的強行法規性について
まず、区分所有法(以下、「法」という)における特別多数決議の要件として
・共用部分の変更(法17条1項)
・敷地又は付属施設の変更(法21条は法17条を準用)
・規約の設定、変更及び廃止(法31条1項)
・管理組合法人の成立(法47条1項)
・管理組合法人の解散(法55条2項)
・専有部分の使用禁止請求(法58条2項)
・区分所有権の競売請求(法59条2項)
・占有者に対する引渡請求(法60条2項)
・大規模一部滅失の場合の復旧(法61条5項)
・建替え決議(法62条1項)
・団地規約についての各棟の承認(法68条)
・建替え承認決議(法69条)
・一括建替え決議(法70条)
が定められています。
上記特別多数決議の要件のうち、法31条1項の規定は絶対的強行法規であり、管理規約をもってしても別段の定めをすることはできません。
すなわち、規約の設定、変更及び廃止については「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする」こと以外は認められません。決議要件を緩和することも厳しくすることも許されません。まずはこれを覚えておきましょう。
仮に当該マンション管理規約で、これ(法31条)と異なる定めがあったとしても、法31条と抵触する範囲で無効です。
したがって、法31条の要件(「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数」)に従って、質問事例の「管理規約の変更」や「共用部分の変更」に関する規約の定めを改正できることになります。
(2) 特別決議要件の厳格化について
では、質問事例の管理規約の定めを改正しない場合にはどうなるのでしょうか。
前述したとおり、法31条は絶対的強行法規なので、それと抵触する部分は無効です。
他方、共用部分の変更に関する規定(「区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で決する」旨の定め)については一概に無効とは言えません。特別多数決議事項の決議要件を厳格化することは許されると解されているのです(『コンメンタールマンション区分所有法[第2版]』186頁、104頁(日本評論社、平16))。
そうすると、「共用部分の変更について、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で決する」旨の規約の定めは一応有効と解されます。
一見、それ(「区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で決する」旨の定め)はおかしいとお感じになるかもしれませんが、もし、管理組合として「それがおかしい」とお感じになれば、当該規約を改正すればよいのです。
つまり、法31条の要件(「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数」)に従って、共用部分の変更に関する部分(定め)を改正すればよいのです。
机上論としては、それ(「共用部分の変更については、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で決する」旨の定め)を、さらに厳格化する(例えば、「共用部分の変更は、区分所有者及び議決権の各10分の9以上の多数で決する」)旨の規約の定めも有効です。厳格化したとしても、もし不都合を感じればいつでも「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数」(法31条参照)をもって、その定めを改正すればよいのですから。
管理規約の定めによって特別決議要件を厳格化しても、それ(管理規約の定め)自体を法31条の要件(強行規定)によって、いつでも変更(決議要件緩和)できるから不都合ないだろう・・・このことが厳格化有効説の根拠となっています。
(3) 特別決議要件緩和化について
では、特別決議要件について、法で定める要件よりさらに緩和することは許されるのでしょうか。管理規約でそのような定めをすることが許されるのでしょうか。
この点、法17条(法21条は法17条を準用)については決議要件を緩和すること(「区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。」こと)を明文で認めています。その範囲で緩和することは、もちろん許されます。
しかし、明文規定がない場合には、特別決議の要件を緩和すること(例えば、「区分所有者の定数は過半数で足りる」というような定め)は認められないと解されています。
つまり、
・47条(管理組合法人の成立)
・55条(管理組合法人の解散)
・58条(専有部分の使用禁止請求)
・59条(区分所有権の競売請求)
・60条(占有者に対する引渡請求)
・61条(大規模一部滅失の場合の復旧)
・62条(建替え決議)
・68条(団地規約についての各棟の承認)
・69条(建替え承認決議)
・70条(一括建替え決議)
については、法所定の決議要件をさらに緩和することは認められないと解されています。
以上、要約すると、
絶対的強行法規である法31条の決議要件は、厳格化することも緩和することもできない。それ以外の特別多数決議事項については、決議要件を厳格化することは許されるが、緩和することは明文規定のある場合(17条)を除き認められない。
ということになります。
(4) 実務的な問題
さて、一歩進んで、実務上問題となるようなケースを挙げておきましょう。
例えば、質問事例の管理規約が(改正されることなく)そのまま存在しているとしましょう。つまり、「共用部分の変更に関しては、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で決する」と定められています。そして、共用部分の変更(工事)を至急実施しなければならない状況にあるとしましょう。
そのような状況下で、「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数」の要件を満たすことは可能だが、「区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数」の要件を満たすことは不可能であるという事態も想定できます。
このようなとき、もちろん前もって管理規約(共用部分の変更決議の要件)を改正しておけば問題ないのですが、前もって管理規約を改正していない場合どうすべきでしょうか。
その場合、当該総会(1回の総会)において、いずれについても決議するということが考えられます。すなわち、例えば、第1号議案で管理規約の改正(「共用部分の変更は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で決する」旨の改正)決議をして、第2号議案で共用部分の変更を(改正後管理規約に基づき、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で)決する、ということが考えられます。
なお、このようなやり方に対して、クレームを付けてくる組合員がいるかもしれません。当事務所の顧問先様は、(すべてそうですが…)トラブルになる前に当職(弁護士平松)に相談するようにして下さい。
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