EMG総合法律事務所: マンション管理Q&A

総会(集会)の運営について


9 事務所使用の承認拒絶について


  当マンションでは、「専有部分を事務所として使用する場合には管理組合理事会の承認を受けなければならない」旨の管理規約の定めがあります。この度、ある区分所有者から、理事会に対し、事務所使用の承認要求がありました。理事会としてはこれを承認できないと判断して、承認を拒絶しております。そうしたところ、当該区分所有者から、承認しないことは違法であると言われました。そして損害賠償請求をすると言われました。承認する否かは理事会の裁量だと思うのですが、承認しないことは違法となるのでしょうか?


  今回、理事会が承認しない理由はよく分かりませんが、場合によっては承認拒絶が違法となることもあります。
 承認拒絶が違法ということになると、損害賠償義務を負うこともあります。
 管理組合が損害賠償責任を負うこととなった裁判例を紹介しておきましょう。


東京地裁平成4年3月13日判決
平成2年(ワ)第1410号損害賠償請求事件


【事案の概要】
 原告は、自己が所有するマンションの専有部分についてのコンピューターソフト開発会社との間で賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結したところ、被告が正当な理由がないのに右契約を承認しなかつたために合意解約せざるを得なくなったと主張して、被告に対し、不法行為を理由として損害賠償を請求した。

【結論(判決主文)について】
 被告は、原告に対し、金513万3870円及びこれに対する平成3年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

【当事者について】
 原告は、昭和63年7月28日から平成3年3月14日まで、本件マンションの専有部分を所有し、その間被告の組合員であった者である。
 被告は、本件マンションの区分所有者によって構成され、本件マンションの敷地、共用部分の管理等を行うことを目的とする権利能力なき社団である。

【争点について】
1 被告が本件賃貸借契約を承認すべき義務の有無
2 原告の損害の有無及びその額
3 被告の加害行為と原告の損害との間の因果関係の有無


【争点についての裁判所の判断】
 
争点1 被告が本件賃貸借契約を承認すべき義務の有無について
結論・・・被告は承認する義務を負っていた。
裁判所の判断理由(抜粋)


 新規約一二条一項は、区分所有者が住居部分を事務所に使用する場合には被告の承認を受けなければならない旨規定しているが、被告が右の承認を与えるか否かは、住居部分を事務所に使用しようとする区分所有者に重大な影響を及ぼすのであるから、その判断に当たっては、事務所としての使用を制限することにより全体の区分所有者が受ける利益と、事務所としての使用を制限される一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考量して決定すべきである。

 これを本件についてみると、たしかに、事務所としての使用を無制限に放任した場合は、床の荷重の問題のほか、消防設備あるいは電話設備等の改修工事の要否等、波及する影響は大きく、費用負担の軽減及び居住環境の悪化防止等の観点からも、その制限には一般論として合理性を是認できないわけではない。

 しかし、本件においては、マンション分譲時に成立した旧規約の二六条に専有部分のうち住居部分は住居又は事務所以外の用に供してはならない旨の定めがあり、本件専有部分の属する三階以上の建物部分についても事務所としての使用が許容されていたと認められるのであるから、区分所有者にとつてその同意なくして専有部分を事務所として使用することが禁止されることは所有権に対する重大な制約となることはいうまでもないところである。

 特に、原告は、今回の規約改正の一〇年以上前から本件専有部分を賃借して事務所としての使用を開始し、二年余り前にはこれを購入し、右規約改正の一か月以上前から事務所用の物件として賃借人を募集し、新規約発効時には賃借人が本件専有部分を現実に事務所として使用していたのであるから、その既得権を奪われることによる原告の不利益は極めて大きいといわざるを得ない。しかも、賃借人であるアドックスは、コンピューターソフトの開発を業とする会社で、従業員が二、三名という小規模な会社にすぎず、その入居を認めることにより床の荷重の問題が生じたり、あるいは消防設備等を設置することが不可欠となるかは疑問の余地がないではなく、また、本件専有部分を事務所として使用することにより直ちに著しく居住環境が悪化するとも思えないのであって、事務所としての使用を認めることによる被害が重大なものとはいいがたい。

 右の双方の利害状況を比較考量すれば、本件の承認拒絶により原告が受ける不利益は専有部分の所有権者である原告にとつて受忍限度を越えるものと認められるから、被告は、本件賃貸借契約を承認する義務を負っていたものと解するのが相当である。

 したがつて、被告は、本件賃貸借契約の承認を拒絶することにより、原告の所有権を違法に侵害したものと認められる。


争点2 損害の有無及びその額について
結論・・・計513万3870円の損害
裁判所の判断理由(抜粋)


 原告は、被告の承認拒絶により、平成元年一〇月一日から平成三年五月一三日までの間の賃料相当額三八八万三八七〇円、権利金相当額四〇万円及び改修工事費用額八五万円の損害を受けたと認められる。

 右損害のうち権利金相当額四〇万円については、本件賃貸借契約の契約書には権利金の記載がないが、原告が出した広告には礼金二か月分とあり、賃貸借契約においてしばしば敷金と同額の礼金の授受が行われることに照らせば、本件賃貸借契約において四〇万円の権利金を交付する旨の合意があつたと認めるのが相当である。

 また、右損害のうち改修工事費用額八五万円を原告が現実に支払ったのは本件賃貸借契約合意解約後であるが、右改修工事の見積りは平成元年九月二日に提出されており、右合意解約時には既に改修工事が進行中であつたと推測されるから、改修工事費用額八五万円は本件承認拒絶による損害と認められる。

 (二) 被告は、原告が本件専有部分を居住用として賃貸することで事務所として賃貸した場合と同額の賃料等を取得できる以上、原告に損害はないと反論する。

 しかし、前記認定のとおり、原告は、本件賃貸借契約合意解約後、本件専有部分を居住用として賃貸しようと努力したにもかかわらず、賃借人を見つけることができなかったのであって、ことさら原告が賃貸の努力を怠り、損害を拡大させたような事情は認められないのであるから、被告の右反論は採用できない。

 また、被告は、原告が本件賃貸借契約について被告の承認が得られないことを承知していた以上、本件の損害は原告が負担すべきであると反論する。

 しかし、原告が本件賃貸借契約について被告の承認が得られないことを承知していたというような事実は認められないから、被告の反論は前提を欠き採用できない。


争点3 被告の加害行為と原告の損害との間の因果関係の有無について
結論・・・因果関係あり
裁判所の判断理由(抜粋)


 被告が本件マンションの管理において極めて重要な役割を果たしていることにかんがみると、被告が●●●の事務所使用を承認しない状況のもとで、●●●が強引に入居したとしても、その業務に支障が生ずることが当然予想される。

 したがつて、右のような状況において原告が本件賃貸借契約を解約したことはやむを得ない処置であつたと考えられる。そうであれば、被告の承認拒絶と損害の発生との間には因果関係があることが認められ、たとえ両者の間に原告の賃貸借契約解約という行為が介在していても、そのことをもつて右因果関係の存在には影響を与えない。


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